日曜日の散歩 ラ・バディアへ
オルヴィエートの西方向を崖の上から見渡すと視界に入るのが6世紀に建てられ、12世紀に修復された元修道院。12角形の塔は10世紀に建てられたもの。300年の間、ウンブリアの貴族が所有していたけれど1960年代に改造され、現在は4つ星のホテルになっています。地元ではこの集落の建物を”ラ・バディア”と呼びます。
オルヴィエートの崖上から真っ赤なポピーが咲き乱れる田舎道をゆっくり降っていくと修道院まで30分ほど。帰りの坂道はちょっときついけれど、ぶらっとした散歩にはちょうど良い距離。辺り一面に広がるのはオルヴィエート・クラシコ・ワインに使われるブドウ葡萄。この葡萄畑の脇道の坂を登って行くとひっそりとした林の中にラ・バディアへの入り口が現れます。
日曜日だったので泊り客はオルヴィエート市内や近郊の街へ観光見物へ出掛けているらしく、敷地は閑静としていて聞こえるのは風のそよぐ音と私が踏む砂利の音だけ。何100年経っているのでしょうか、塔と同じくらいの高さのチプレーゼの並木の美しいこと。中庭に置いてあるテラス用の椅子とテーブルがまるでミニチュアのおもちゃのよう。
ホテルの中に入るとここもひっそりとしていてリセプションに親切そうなおじさんが一人。中庭でコーヒー飲める?と聞いたらニコニコしてエスプレッソを淹れてくれました。
エスプレッソ・カップを持って中庭に出てアーチの下のテーブルに落ち着くと、聞こえるのは風の音と小鳥の囀る鳴き声だけ。12世紀の舞台にたった一人、タイムトリップした様な錯覚に。
こうして歴史の一部に溶け込むことの出来るひと時こそイタリアが”異邦人”にも平等に差し伸べてくれる贈り物。感動すると共に国籍を問わないヒューマニズムを心に感じます。
リセプションのおじさんによるとラ・バディアの神秘的な美しさを背景にホテルは結婚式を始めとする多様なイヴェントの舞台に使われているようです。以前はレストランもあったけれどパンデミック以来、閉鎖しており、再開の予定はないとのこと。残念です。
ウエディングもロマンティックだけれどもし私がダンサーだったらこの舞台で踊ってみたい、もしチェリストだったら椅子を一つ置いて演奏をしてみたい、この廃墟の舞台に立ってアーチの向こう側に見えるオルヴィエートの背景を眺めていると想像力がどんどん湧いて来ます。
12世紀に建てられたロマネスクの教会。聖具室の壁を飾るフレスコ画は、13世紀から14世紀にかけて描かれたもの。床のモザイクの美しいこと、何十世紀にも渡り保存されています。
ラ・バディアを去る前に支払いをと思いリセプションのおじさんに声をかけたら、”いいですよ、今日はこちらのおごりだから”と優しい笑顔。 ”まあ、どうも有難う!また散歩がてらにコーヒを飲みに又来ますね”と私。
素敵な日曜日の午後。今度はスケッチブックを片手にこのテラスに座ってゆっくりとコーヒー・タイムを過ごそうかしら。最後にラ・バディアから見たオルヴィエートの颯爽としたパノラマをお見せしましょう。
View of Orvieto from La Badia